-
「鵜でも売れたのだろう」
Mittwoch, 20. März 2013
「鵜でも売れたのだろう」と、半七は笑った。 「いえ、鵜はまだ売れません。家の前に売り物の札《ふだ》が付いて居ります」と、文右衛門はまじめに答えた。 「伊豆屋の若い者はどうしたね」 「きのうまで手前共に逗留《とうりゅう》でしたが、いつまでも手がかりが無いので、いったん江戸へ帰ると云って、今朝ほどお立ちになりました」 「それじゃ行き違いになったか」 釜屋の亭主を帰したあとで、半七は善八にささやいた。 「おめえは友蔵の家《うち》を知っているだろう。あいつは今夜、家にいるかどうだか、そっと覗いて来てくれ」 「ようがす」 善八はすぐに出て行った。 「友蔵の奴を挙げますかえ」と、幸次郎は訊いた。 「あいつ、どうも見逃がせねえ奴だ。不意に踏み込んで調べてやろう。先月の晦日ごろに江戸へ出たといい、景気よく銭を遣っているといい、なにか曰《いわ》くがあるに相違ねえ」 やがて善八は帰ってきた。 「友蔵は家《うち》で酒を喰らっていますよ」 「友達でも来ているのか」 「それがね。髪も形《なり》も取り乱しているが、ちょいと踏めるような中年増に酌をさせて、上機嫌に何か歌っていましたよ」 「それが例の幽霊かな」と、幸次郎は云った。 「なるほど蒼い顔をしていたが、確かに幽霊じゃねえ。第一、友蔵の娘という年頃じゃあなかった」自動車保険 河豚は食いたし命は惜しし