• わたしにも勿論

    Freitag, 22. März 2013

     わたしにも勿論、心当りはなかった。しかも刑事に対して何かのヒントを与える材料にもなろうかと思って、わたしは今夜の一条を話した。多代子がこの夏休みに帰省を忌《いや》がること、兄の透が無理に明朝の列車で連れて帰ろうとすること、それらを逐一聴き終って刑事はまた考えていた。 「いや、いろいろありがとうございました。では、まあ、今夜はこのままにして置いて、もう一度よく考えてみましょう。」  相手が実の妹であると知って、刑事も探偵的興味を殺《そ》がれたらしく、丁寧に挨拶して別れて行った。透と多代子とが兄妹であることを、警察が今まで知らなかったのは少しく迂濶《うかつ》ではないかと私は思った。  なにしろこうなった以上は、事件が又どんな風にもつれて来て、先生の迷惑になるようなことが無いとも限らない。わたしは翌朝、会社の方へちょっと顔出しをして、すぐに根津へ廻ろうと思っていたのであるが、会社へ出るとやはり何かの用に捉えられて、午前十一時ごろにようよう自由の身になった。きょうは何だか気が急《せ》くので、わたしは人車《くるま》に乗って根津へ駈けつけると、先生はもう学校へ出た留守であった。それは最初から予想していたので、わたしは二階へ通されて奥さんに会った。 「ゆうべはあれからどうなりました。」と、わたしはまず訊いた。 「あなたが帰ってから三十分ほどして、良人《うち》は帰って来ました。」 「透君はそれまで待っていたんですか。」 ゴミ屋敷 Ferocious thief

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