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女はわざと疲れた風を
Dienstag, 16. April 2013
女はわざと疲れた風を見せないようにして、先に立って大師の表門をくぐると、前にもいう通りきょうは九月の縁日にあたるので、江戸や近在の参詣人が群集して、門内の石だたみの道には参下向の袖と珠数とが摺れ合うほどであった。女も手首に小さい珠数をかけていた。 その人ごみのあいだを抜けて行くうちに、女はふと何物をか見付けたように、下男をみかえってささやいた。 「あれ、あすこにいるのは……。」 言われて、下男も見かえると、石だたみの道から少し離れた桜の大樹の下に、ふたりの女がたたずんで、足もとに餌をひろう鳩の群れをながめていた。下男はそれを見つけて、足早に駈け寄った。 「もし、もし、お島さんのおっかあじゃあねえか。」 下男の声はずいぶん大きかったが、あたりが混雑しているせいか、それとも何か屈託でもあるのか、呶鳴るような男の声も女ふたりの耳にはひびかないらしかった。下男は焦れるように又呼んだ。 山形 歯医者 無沙汰は無事の便り