団十郎の芝居にありそうな

Sonntag, 24. März 2013


 団十郎の芝居にありそうな仲の町の華麗な桜も、ゆく春と共にあわただしく散ってしまって、待乳《まつち》の森をほととぎすが啼いて通る広重《ひろしげ》の絵のような涼しい夏が来た。五月には廓で菖蒲《しょうぶ》を栽《う》えたという噂が箕輪の若い衆たちの間にも珍らしそうに伝えられたが、十吉は行って見ようとも思わなかった。  五月のなかごろから暗い日がつづいた。箕輪田圃では蛙《かわず》がやかましく鳴き出した。十吉の家を取り巻いた蓮池には青い葉が一面に浮き出して来て、ここでも蛙が毎日鳴いた。 「蛙がたくさん鳴く年には梅雨《つゆ》がたくさん降る」  お時が言った通り、ことしの梅雨は雨の量が多かった。  ここらの藁屋根が腐るほどに毎日降った。陽《ひ》というものがまるで失《な》くなってしまったのではないというしるしに、時どきうすい影を投げることもあるが、それは忽ち暗い雲の袖に隠れてしまった。 「阿母《おっか》さん。よく降るねえ」 志津の美容室なら