心無しを使うな
Dienstag, 5. März 2013
心無しを使うなと俚諺にもいう十月の中十日の短い日はあわただしく暮れて、七兵衛がお兼ばあやの給仕で夕飯をくってしまった頃には、表はすっかり暗くなった。本所へ出て行った三人はまだ帰って来なかった。相手が留守なので張り込んでいるのだろうと思っていたが、あまり遅いので七兵衛も少し不安になった。どんな様子か見とどけに行って来ようかと身支度をして門を出るところへ、いつもの勘次が空手で来た。 「親分。申し訳がありません。富の野郎が持病の疝気で、今夜はどうしても動けねえと云うんですが……」 「それでお前ひとりで出て来たのか。正直な男だな。実はこれから本所まで御用で行くんだから、今夜はお前に用はなさそうだが、まあそこまで一緒に附き合ってくれ、途中で又どんな掘出し物がねえとも云えねえ」 「あい。お供します」 女房の尻に敷かれているらしい男だけに、意気地はないが正直で素直な彼を、七兵衛は可愛く思った。ふたりは話しながら両国の方へ歩いてゆくと、長い橋のまん中まで来かかった時に、あたまの上を雁が鳴いて通った。 「だんだんに寒くなりますね」 豊中 インプラント 今日の一針、明日の十針